壱岐の天然記念物
辰ノ島海浜植物群落(国指定)
1966年2月17日指定、辰の島は壱岐のすぐ北にある面積6.7ha の小島である。東と西の高所の間に砂浜が広がる。砂浜の頂部の安定帯にはハイビャクシン群落がある。その中には、ハマゴウ・テリハツルウメモドキ・丈の低いマルバシャリンバイ・クロマツ・トベラも混じっている。ハイビャクシンがここの海浜群落でもっとも貴重なものである。砂浜の頂部から汀線に向っては、半安定帯にケカモノハシ・オニシバ・ハマムギ・ハマボウフウ・カワラヨモギの群落があり、最前線にはネコノシタやコウボウムギが散生する。一部にはハマオモトも生育している。砂浜頂部から最前線に至る群落の模式的な配列がみられる。砂浜特有の海浜植物群落が発達しており価値が高い。
カラスバト(国指定)
1971年5月19日指定、日本のハト類の中で最も大きい。全体が黒色で紫や緑の金属光沢があり、特に頭上の金属紫色が著しい。本州、四国、九州の太平洋に面した温暖な島や島嶼に生息する。本県では対馬、男女群島等に分布する。樹林中に住み、木の実を食べる。カラスバトは、近年、各地で激減している鳥の一つで、最近では極めて珍しい鳥になっており、この鳥の生息は貴重である。
壱岐志原のスキヤクジャク群落(県指定)
1956年4月6日指定、スキヤクジャクはアジアンタム属の美しいシダで、地下の短い茎から数枚の葉が出る。よく発達した葉は、全長15㎝に達して3枚に分かれ、それに多数の小葉がつく。細い根にこぶ状の小体ができ、それによっても繁殖する特性がある。志原は壱岐の南部にある集落で、自生地は人家に近い溝のほとりである。現在、日本で知られている産地は、硫黄島、屋久島、壱岐島、北松大島など7ヵ所で、琉球列島にも知られていない。自生地の状況から見て、胞子が南方から飛来して発生したものと思われる。
壱岐渡良のアコウ(県指定)
1958年6月5日指定、アコウは南方系のクワ科の樹木で、同科のイチジクやイタビ類に近く、その北限の一つは佐賀県の高串で、そこがあこう北限地として国の指定を受けている。壱岐は、九州本島からはるかに離れた玄海に浮かぶ島であるが、この島の西海岸、半城(はんせい)湾に臨んだ海辺に指定のアコウがある。根回り4mで、生育は旺盛である。アコウの木の生育地としては、日本最北端に位置する。自生か植えたものかの判断は困難であるが、もし植えたものとしても貴重である。
鏡岳神社社叢(県指定)
1973年9月4日指定、この社叢は、壱岐の南端近く、突出した小さな半島の全体をおおっている。海抜は50m程度、山腹にはスダジイを優占種とする照葉樹林が発達している。そのほか、クロガネモチ・ヤブニッケイ・ホルトノキ・モッコクが林冠を形作り、林内にはトベラ・サンゴジュ・ネズミモチ・ハマビワ・ハクサンボク・ヒサカキ・マサキ・アオキ・ギョクシンカなどの常緑低木、林下にはベニシダ・テイカカズラ・ノシラン・ビナンカズラ・サカキカズラ・キジョラン・キヅタなどが繁茂する。かつてシロシャクジョウ・ムヨウラン(ともに白色の腐生植物)、アヤランなどの稀産種が生じたこともある。この社叢は海に接する丘陵地の照葉樹林の原型をよく残している。また、ギョクシンカはここが分布北限地である。
初瀬の岩脈(県指定)
1966年9月30日指定、壱岐島は低い丘陵性の地形をもち、その地質は大部分が玄武岩類によって構成されている。南部の海岸地帯には、玄武岩に被覆される古期の火山岩類に属する安山岩や流紋岩が露出する。初瀬~久喜間、および久喜~印通寺間の海岸地帯に分布する流紋岩は、白~灰白色を呈する黒雲母流紋岩であり、変質安山岩を被覆する。初瀬の鏡岳神社の北側では、流紋岩が露出する断崖絶壁に、幅17~18mの玄武岩の岩脈が垂直に貫入し、縁辺部には流紋岩の捕獲岩を取り込んでいる。真白な流紋岩中に、真黒な岩脈がほぼ垂直に貫入している状態は、玄武岩が割目噴出をして、地表に溶岩流として溢れ出る過程を説明することのできる貴重な地質学的資料である。
壱岐産ステゴドン象化石(県指定)
1977年5月4日指定、ステゴドンは、長鼻目、ステゴドン科に属する大型の旧象であり、屋根型の稜が列をなす臼歯が特徴である。昭和46(1971)年1月7日、勝本町湯ノ本浦西方六郎瀬鼻の海食崖に露出する地層から田島俊彦氏(当時長崎市茂木中学校教諭)が象化石を発見した。その後の本格的発掘調査により、臼歯の一部、門歯(いわゆる象牙、大小あり、2頭分と思われる)の他、多数の骨片を掘り出し、ステゴドン象化石であることが確認された。発掘した化石標本(約20個)は、現在、一支国博物館に収蔵されている。希少なステゴドン象の化石である。壱岐産のステゴドンの右上顎の大臼歯の特徴は、日本産のアカシゾウやトウヨウゾウとは区別され、中国北部の楡社統(鮮新世中期)の旧象に類似する点が多い。
壱岐報恩寺のモクセイ(県指定)
1961年11月24日指定、モクセイは中国原産のモクセイ科の代表樹で、観賞用のため広く庭に植えられる。葉は堅く、先のとがった長円形で長さ数㎝。秋になると葉のつけねに小さい花が密集してよい香りを放つ。花は深く裂けた四弁花である。花の色の純白のものをギンモクセイ、赤黄色のものをキンモクセイ、淡黄色のものをウスギモクセイとして区別する。指定のモクセイはウスギモクセイである。樹の高さ9.50m、幹の回り1.75mもあり、日本最大級の大きさを持つ珍しい巨樹である。
壱岐国分のヒイラギ(県指定)
1961年11月24日指定、このヒイラギは、芦辺町の国分と住吉を結ぶ旧街道の路傍で、美崎神の小さい森のなかにある。この森にはシイノキ・ヤブニッケイ・ヤブツバキ・タブノキなどが茂っているが、指定のヒイラギはその中心になっている。幹の回りが2.40mほどの雌株である。樹高約9mを誇る県内有数のヒイラギの老大木である。樹勢は現在でも旺盛で価値がある。
勝本のハイビャクシン群落(県指定)
1951年7月3日指定、ハイビャクシン(裸子植物、ヒノキ科)は海岸の崖地や砂地に生ずる。その分布は朝鮮半島南部の数ヵ所のほかは、対馬上島の北部と東部の海岸、壱岐北部の辰の島、若宮島、名烏島、串山半島、小値賀町の美(び)良(りょう)島、ほかに福岡県と佐賀県に1ヵ所ずつ生育するだけで、全分布のほとんどは長崎県内にある。天然記念物の指定地は、上記の辰の島(国指定、別記)のほか、名烏島、串山半島の自生地をふくむ。風当たりが強く他の植物が生じ難い崖地に、一面に広がって群落をなし、あるいは砂浜の上部にハマゴウと混生して広がっている。通常はスギの葉のような針葉だけであるが、まれにヒノキの葉のような鱗葉をまじえるものもある。幹は地面をはい、全長10m以上に達することもある。日本と韓国の間にのみ自然繁殖している海浜植物で、全分布のほとんどは長崎県内で、他県ではほとんど見ることができない植物であり、価値がある。
壱岐安国寺のスギ(県指定)
1968年12月23日指定、指定のスギは壱岐で名高い安国寺の本堂の前に高くそびえているもので、目通り回り6m余り、根回り10m、樹高25mほどあり、樹齢は600年を超えるとされる。樹形はスギの特徴をよく現して、まことに端正でスマートである。このスギの樹上、高いところに、オオバヤドリギが寄生している。スギはスギ科の常緑針葉樹で、日本特産、中国のほか、ヨーロッパやアメリカにも日本から早く渡っていった。
壱岐長者原化石層(県指定)
1976年2月12日指定、芦辺町八幡半島の東南端にある長者原崎に露出し、層理のよく発達した珪藻土質の地層であり、古くから植物の葉や魚の化石を多産することで名高い。含化石層は、長者原崎をはさんで東西に分かれ、100~200mの延長をもって露出する。地層の走向はほぼ東西に分れ、南へ10~14°傾斜する。西側の屏風岩の地層が指定されている。本層の化石の研究は古くから断片的に行われているが、アメリカの魚類学者ジョルダンによって、大正8(1919)年に、魚類化石の新属・新種として、イキウス・ニッポニクスが記載されている。旧石田町の林徳衛氏が、植物化石(葉化石)40科67属83種、昆虫化石7科10種、魚類化石4目6科12~16種、蛇化石1種を報告した。魚類の大部分はコイ科に属し、魚類相は中国大陸のものに近い。本層は、新生代第三紀中新世中期を示す。珪藻土層中にある淡水性化石産出地として価値がある。
壱岐白沙八幡神社社叢(県指定)
1969年1月31日指定、この社叢は、壱岐の東南側の低地、海岸から1㎞たらずの距離にある。壱岐に昔から遺る「鎮守の森」で、以前は「禁足の地」であったため、自然の樹林が残る。スタジイが優占し、ヤブニッケイ・タブノキ・イヌマキ・ホルトノキ・イスノキ・クスノキが林(りん)冠(かん)を形成する。林内にはヤブツバキ・イヌガシ・ハマビワ・クロキ・ネズミモチ・マサキ・コショウノキ・ハクサンボク・クチナシ・ヒサカキなどの常緑低木が生育し、林床にはアリドウシ・ホソバカナワラビ・フウトウカズラ・テイカカズラ・サカキカズラ・キジョラン・ツワブキ・ムサシアブミが繁茂する。壱岐は低平な島で、かつてこの地をおおっていた照葉樹林は伐採され、あるいは農地に姿をかえている。そうした中で、この社叢はその原型をよく残している貴重な存在である。